Text / Rie Miyata
宮田理江
(ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター)
多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報などを発信。リアルトレンドを落とし込んだ着こなし提案も得意とする。コンサルタントとしてのビジネスも手がけ、企業向け提案、セミナー、イベント出演も多い。
セレクトショップ「GALLARDAGALANTE(ガリャルダガランテ)」の表参道店が20周年を迎え、リニューアルオープンを果たします。企画を練り上げたリーダーは、ガランテの立ち上げを担った山﨑修・パル常務執行役員です。20年前の創業から一貫して、ガランテの「軸」であり続けている山﨑さんに、リニューアルのコンセプトや変化ポイントなどをうかがいました。
時代的にいろいろと変えるタイミングだと思っていたところに、たまたま新型コロナウイルスに見舞われ、偶然、このタイミングでのリニューアルとなりました。基本的なコンセプトは以前から練ってありましたが、休業期間中にじっくり考えていくうちに、インテリアや演出は部分的に変更を加えています。
ガリャルダガランテはフェミニン要素が強いうえ、エフォートレスな雰囲気があるところが受け入れられて、働く女性に支持される店になりました。立ち上げ以来のコンセプトが20年間にわたって、理解を広げてきた結果と言えるでしょう。支持してくださったお客様のおかげであり、本当にありがたいことです。
しかし、今後は、本当に必要な物だけを買う方向に、お客様の意識が変化していくと思われます。ショップを選ぶ基準も変わっていきそうです。そこで、この機会にコンセプトから見直しました。
強く意識したのは、「自然であるものと、人工的であるもの」、この2つの境界線です。自然と人工は別々だと思われがちですが、実はそれは西洋的な価値観に基づく解釈です。日本人的な考え方では、自然物も人工物も、どちらも神様が宿り得る物であって、境界線はないのです。
ガラスが砂からできていることでも分かる通り、人工的な物は自然から得られた原材料で作られているでしょう。つまり、人工物ももともとは自然物です。そういう意味では、境界線がないと考えられます。そういう懐の深い、日本流の自然観に沿って、自然とアートを組み合わせたショップにしようと考えました。
表参道店はもともと天然石や瑪瑙(めのう)をインテリアに使っています。今回は味わいの深い石が採れることで有名な、宮城県の「伊達冠石(だてかんむりいし)」を、大蔵山スタジオから取り寄せて、ショップ内のメインテーブルや什器を作ってもらいました。
私自身、伊達冠石が好きで、欧米でも目にしています。ニューヨークのクイーンズ地区にある「イサムノグチ庭園美術館」では、石の半分ほどに伊達冠石が使われています。
自然な物とシンプルな空間を合わせると、洋服がきれいに見えるだろうと考えました。山と海はつながっているという発想に基づいて、山の物では「伊達冠石」を使って、海の物では狩野佑真(かのう・ゆうま、studio yumakano代表)さんにローテーブルや椅子を作ってもらいました。造船所にスタジオを構える狩野さんは、海に鉄を浸し、錆(さび)を生かしたアート作品を制作しています。アートの要素ではありますが、自然な見え具合で、心地よい空間になるよう、取り入れ方を工夫しました。コンセプト的には「自然と人工の融合」みたいな感じです。
今までの店内とは違って、物はあまり置かず、シンプルにしつらえました。空間の心地よさを、ゆっくり感じてもらえたらうれしいと思います。
表参道店で買うという体験を味わってもらえるようなショップづくりを意識しました。ショップで働く「人」を大事にしてきた弊社(パル)らしく、お客様としっかり話のできるスタッフがいるというところを、あらためて打ち出していきたい。ここは本当に大切に考えてきた点です。
今回のコロナショックをきっかけに、商品構成を見直して、型数を絞り込みました。品ぞろえのボリュームに頼りすぎないで、お客様の求めるスタイリングをちゃんと説明できるか、お客様の気持ちに寄り添う接客がしっかりできるかなどを、もう一度、ショップの柱に据えたいと考えました。
ショップの雰囲気も重視しています。お買い物をしながらくつろいでもらえるような空気感が大事です。だから、外の通りから中が見えやすいデザインを選びました。居心地のよさを感じられる空間には、上質な時間を求めるお客様が集まります。表参道店はそういったお客様が集まるような店にしたい。
意図的に変えなかったのは、根本的なテイストや基本的な立ち位置です。たとえば、5年前に打ち出した「SPICE OF LIFE」。いつもの生活や着こなしに少しだけスパイスを添える提案です。こういった本質的なところは変わっていません。「Intelligence」「Atomosphere」「Timeless」「Elegant」「Pure」という、以前から掲げている、5つのキーワードも変えません。
一方、提案の方法や、提案する中身のほうは、変わっていく可能性があります。ライフスタイルがどんどん移り変わっていくのに合わせて、変化していくのは、お客様に求められていることだと思います。
気負わないエフォートレスや、少しジェンダーレスなところは、ブランドのアイデンティティとして変わることなく保ち続けていきたい点です。旅のムード、程よいスパイス感も変えていません。これらはガリャルダガランテの「らしさ」だと考えるからです。
「家ごもり」が広がって、家で着る服が見直されているのを受けて、家でも外でも着られる、従来にないような、少し面白い服も考えています。実は、新しいブランドを9月以降に立ち上げる予定です。
新ブランドの名前は「CASA GALLARDAGALANTE(カーサ ガリャルダガランテ)」。「カーサ」はスペイン語で「家」という意味です。「Art & Comfortable」をコンセプトに据えて、美の気配を醸し出す服を提案していきます。当初は10型だけのスモールコレクションです。家でも外でも着られて、価格は1万円台。家でも着てほしいから「CASA」と名付けました。着心地がよくて、自宅で洗える。そういったイメージで準備を進めています。
ポジティブな意味での「違和感」がどこかに入った服を提案したい。いろいろと難しい時代だからこそ、「いつも」や「これまで」とは違う、自分なりの装い方に気づくきっかけにしてもらえたらうれしいですね。
デビューコレクションでは「バウハウス(Bauhaus)気分」をテーマに掲げました。バウハウスとは、1919年から14年間だけドイツにあったデザイン教育機関です。第2次世界大戦が始まろうかという、大変な時代に生まれた文化で、クラシックでありながら、新しく見えるといったデザインでもあります。
コロナ休業の期間中、スタッフと一緒に先々のことを考える時間を持てました。結論として得られたのは、「長く愛されるものをつくりたい」ということです。ここまでの20年間に加えて、もう20年先まで続けていくには、新しいことにチャレンジし続けていかなければならないと思います。それは過去20年間、ガリャルダガランテがやってきたことでもあります。
長く続けることを優先してきたわけではなく、一瞬一瞬を大事にしてきた積み重ねが結果的に「20年」になったと考えています。その時代ごとのトレンドやムード、そういったものを試行錯誤しながらとらえ、丁寧に取り組んだ結果です。
「20年」という長さよりも、それぞれの「一瞬」のほうにずっと意味があった気がします。そのタイミングで自分たちが「いいな」と思うことを素直に表現できるのがガリャルダガランテの強みだと思います。スタッフ全員が考える「いいな」の積み重ねで「20年」ができたのです。
表参道は他のガリャルダガランテ店舗より、大人層のお客様が多く、いろいろな物を見てきた、「経験値」の高い方も多いようです。ファッションの好みに関しては、おしゃれをしたいけれど、年齢の変化につれて、どんなおしゃれを選んだらいいかに迷いを感じているお客様も少なくありません。だから、親身になって相談に乗ってくれるスタッフがいるところがお客様に支持されていると思います。
ショッピングを楽しむにあたって、心地よい空間を求めるお客様が集まる傾向があります。青山・表参道エリアならではの雰囲気を味わいながら、ゆっくり時間をかけてお買い物を楽しむという、ちょっと特別な時間を過ごしに来ている方も少なくないようです。
「旅」は変わらないテーマです。ただ、世の中で旅の意味合いが変わってきているのを感じます。これまでの旅には、日常と非日常の区別がはっきりしていて、気分転換やリセットというイメージがありました。
でも、近ごろは旅に「距離」や「非日常感」を求めるのではなく、自分の原点に戻るとか、別の感覚を得られるといった体験というイメージが強くなってきました。つまり、移動そのものよりも、どんな変化や刺激を得られるかという、「体験」や「気づき」の意味合いが大きくなっています。
旅で出会えるコスモポリタンな空気は、新しい自分を見つけるきっかけになります。旅の中ではリセットとリバースを繰り返し、生まれ変わるような体験が得られます。日常にスパイスをもたらすコンセプトを掲げているガリャルダガランテを通して、旅のイメージを感じたり、旅に出掛けたかのような気分を味わってもらえればうれしいです。
世の中はニューノーマル時代に入り、ファッションもスマートでベーシックな方向へシフトしつつありますが、その一方ではどこかで特別感を求めている部分もあります。日常の中でも、さりげなく感じられる上質感と、ちょっとした特別感を提案していきたいと考えています。
アートの解釈は、人それぞれですが、私が考えるところでは、自分が知らない価値観を感じ取ったときに悟るもの、それがアートだと思います。そういうエッセンスを、お客様それぞれの視点で感じ取ってもらえるショップを目指しています。
今回のリニューアルでは、これまで以上に服がきれいに見えるような空間づくりを進めました。単に「服を買う」ための場ではなく、アート感覚に触れたり、旅の気分に浸ったり、イベントや企画を通して様々な体験を楽しんでもらえる居場所もイメージしています。
ずっと提案しているのは、「ファッションを楽しむ」という価値観です。よそではなかなか巡り会うことのない、ガリャルダガランテならではの「スパイス」は、おしゃれを自分らしく楽しむうえで、大事な要素だと考えています。
オブジェや什器など、いろいろな「きっかけ」を用意してあるので、そこからインスピレーションを受けたり、イメージを膨らませたりして、お客様それぞれの心地よさを感じてもらえればと願っています。
山﨑さんのお話を聞いて、20年間もショップを続けることができて、しかも大人女性から支持されている理由がよくわかりました。「一瞬一瞬を大事にしてきた積み重ね、丁寧に取り組んできた結果」。その言葉の通りなのでしょう。リニューアルされた表参道店のお披露目で、実際にショップ内を拝見し、さらに進化を遂げた世界観を実感しました。
これまで以上に穏やかで上質な雰囲気の空間に整えられていて、気分が落ち着くのに、リュクスなムード。別格のインパクトを放っているのは、山﨑さんが惚れ込んだ伊達冠石。そばに近寄るだけでも、自然からパワーをもらえそうです。
ハンガーに掛かっている服は、存在感を宿しながらも、オリジナルブランドはリアルプライスなので、気軽に試着してみたくなります。ラックの配置は間隔が広めで、散歩する気分で見て回れます。あえてギャラリー(画廊)のように空間をゆったり使っている見せ方が魅力的。ソーシャルディスタンシングの面でも安心感の高いレイアウトには、お客様の健康を第一に考える、ガリャルダガランテ側の心配りがうかがえます。
ワンマイルウエアの新ブランド「CASA GALLARDAGALANTE」は9月にもショップに並び始めるそう。過剰に着飾らず、自分らしく過ごしやすい、「私時間」を楽しめる服は、ありそうでいながら、実はあまりなかったテイスト。ユニークな仕掛けがたくさんあってワクワク感が高まるアイテムですから、デビューを期待しつつ、もうしばらくお待ちください。
新しいガリャルダガランテ表参道店は、都心にいながらにして大自然のスピリチュアルを感じ取れるパワースポットのようでもあります。ショップの外から、記念写真を撮りたくなるほど、魅力的なビジュアルです。「服を買う」というよりも、ガリャルダガランテの空気に身をゆだねる感覚で過ごせると思います。青山に誕生する新たな極上空間に、ぜひ足を運んでみてください。
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