FASHION JOURNALIST
RIE MIYATA
TREND TIPS Vol.89
冬本番が終わっても、春先はまだまだ寒いから、春アウターの出番が続きます。本気の防寒までは意識しなくて済む分、春アウターは着こなしのバリエーションが多彩。ジェンダーレスの装いが広がる中、メンズファッション由来のマウンテンパーカ、チェスターコート、フライトジャケット(MA-1)、この3つがあれば、春の着こなしは自由自在。マニッシュとフェミニンの間に存在する、自分だけの「正解」に寄せたスタイリングを組み立てられます。今回は「ガリャルダガランテ」が選んだ春アウターのおすすめトリオを、ジェンダーレス仕様のコーディネートでご案内します。
日本でも「マンパ」の略称でおなじみになったマウンテンパーカ。名前が示す通り、もともとはアウトドア仕様だから、タフ感が持ち味です。ストリート風味で着るケースが多いようですが、大人がまとうなら、ワンピースに重ねるようなエレガンス寄りのスタイリングがおすすめです。
マンパに欠かせないのは、適度な立体感です。かさばりすぎないのに、ほどほどの張り感があるのは、高密度のタフタ素材(ポリエステル100%)で仕立てたから。撥水性も備えていて、雨が心配な日にも心強いアイテムです。
マニッシュな表情を帯びている分、フェミニンな服に重ねると、ジェンダーレスな着映えに整います。黒ワンピースの上から羽織って、硬軟ミックスに仕上げました。パフスリーブのように袖が膨らんで見えるのは、両袖をたくしあげた状態。袖口にゴムを取り回してあるから、好みのポジションでしっかりキープ。袖のボリューム感がきれいに映る仕掛けです。
フードが備わっているので、バックショットにも起伏が出ています。腰から膝までカバーするミドル丈コートはボディラインを自然とぼかしてくれます。色はどちらもコーディネートに困らないブラックとライトグレーの2色から選べます。
【A.EMERY】レザーフラットサンダル ¥27,280BUY
【ZANCHETTI】ハンドバッグ/AMLETO24 ¥179,300BUY
アウトドアに由来するだけに、軽くて動きやすいライトな着心地。裏地のない仕立てなので、初夏でも快適に着られます。ほとんど通年で出番がある、「シーズンパフォーマンス」の高いアウターです。
襟の形にも「技あり」です。このようにふわっと前を開けると襟が広がって、軽やかな印象に映ります。一方で、襟をきっちり閉じると、スタンドカラー風の見え具合に。着映えを手軽にスイッチできるネックディテールです。
マンパらしいのは、フードの大きさ。すっぽりと頭を覆ってくれるから、小雨程度なら傘を持たずに歩けそう。天候の変化が激しい時期にも頼もしい仕様です。
裾部分はドローストリングで調節可能なので、裾を絞ると、ふんわりした美フォルムを引き出せます。裾のドローストリングスをきつめに絞ると、ぽわんとしたラウンド感がアップ。空気をはらんだような立体感が生まれます。広がったシルエットを生かして、ワンピースライクにも着こなせそう。フードと袖に丸っこいボリュームを持たせてあるおかげで、朗らかな表情が生まれています。
写真のようにストレッチの効いたショートパンツに重ねれば、ボーイッシュなムードをまとえます。足元はレディーライクなシューズを迎えるのが大人らしいグッドバランスに導くポイントです。
コートは定番的なアウターですが、実はシーズンを重ねて、バージョンアップを遂げるアイテムです。たとえば、数年前から日本でもおなじみになった、英国紳士風の縦長シルエットが特徴のチェスターコートもそう。街で見慣れた存在になってきたことを受けて、新たな表情を備えたタイプが登場しています。
チェスターコートの持ち味は「カッチリ感」「細長シルエット」「マニッシュ」といわれてきました。でも、進化形はこれらを少しずつずらしています。つまり「しなやか」「ふんわりフォルム」「ジェンダーレス」です。
こちらのピンクベージュのコートは、自然体の着映えが目を惹きます。やさしげで柔和なムードが寄り添い、着ている人のキャラクターまでソフトに見せてくれそうです。
着こなしの自由度が高まるのも、このソフト顔チェスターコートのよさ。落ち感のきれいなワンピースの上から、さらりと羽織っています。従来のチェスターコートは硬質な見え具合にまとまる傾向がありましたが、ナイロン100%の風合いが生きて、角が取れたフォルムに整いました。
同系色のワンピースに重ねて、ミルキーな「トーン・オン・トーン」のコーデに。上品なピンクベージュの色味が印象的な、やわらかくクリーンな着映えに仕上がっています。ふくらはぎに届く程度のロング丈なので、縦落ち感がしっかり。さっそうと着こなせます。
【Proenza Schouler】フラットパデッドサンダル ¥71,500BUY
カジュアルなアイテムを、上品にアレンジするスタイリングも選べます。たとえば、デニムパンツの上から羽織って穏やかなテイストに。縦長のきれいな装いにまとまります。キャメルカラーのチェスターコートなら、落ち着いた雰囲気が濃くなります。
カーディガンにも似た軽やかな着心地なのは、ナイロンタフタ素材で仕立てたおかげ。表面に適度な張り感と、ナチュラルな風合いが備わっていて、リラクシングな風情を醸し出しています。
ウエストのベルトは取り外せるから、ベルトをはずして、ノンシャランとした風情を強める着方も試せます。ナイロン素材ならではのかさばらないコートは、コーデの相性を選びません。
オフホワイト感覚のピンクベージュも、クリーミーなキャメルも癖が強くないので、お仕事ルックにも申し分なし。軽やかな着心地はストレスフリーな1日を約束してくれます。
足さばきが楽なのは、背中側にたっぷり入れたタックと、やや裾広がりのフレアフォルムのおかげ。バックショットにも表情が加わって、どこから見ても様になる着映えです。
ロング丈なのにくつろいだ着用感なのは、肩周りがゆったりしたドロップショルダーだから。さらに、ボディや袖にも余裕があるので、着疲れしにくい仕組み。オーバーサイズすぎないゆとり加減が上出来です。
着心地がライトなのは、裏地がない1枚仕立てゆえ。トップスにスウェットシャツのような厚手タイプを着ても、ごわつきません。どのシーズンでも自在のレイヤードを組み立てやすい理由です。
ナイロン生地は春先に重宝。とりわけ花粉が気になる人は、玄関先で軽くはたいて、家の中に花粉を持ち込まずに済みます。秋にも使いやすいコートだから、季節の変わり目に出番が増えそうです。
広く「MA-1」の通称で知られているミリタリージャケットはもともと軍用だけに、マニッシュな雰囲気が濃く、ジェンダーレスの着こなしにうってつけです。ワンピースやスカートで合わせれば、中性的に見せやすく、オールインワンやパンツなら凜々しく映ります。ゆったりめのシルエットに加え、ブルゾンの前開けや袖まくりも、気負わないムードを漂わせています。
こちらのミリタリージャケットはタフさと華奢感を兼ね備えた特別あつらえのモデルです。もともとメンズから始まったブランドに「ガリャルダガランテ」が別注。メンズラインのMA-1をウィメンズサイズに作り変えてもらいました。
骨太なメンズシルエットの面影を残しながら、ウィメンズの体型にしっくりなじむフォルム。別注ならではの「いいとこ取り」がかないました。さらりと羽織りやすい、控えめのオーバーサイズがこなれムードを寄り添わせています。
歴史の長いMA-1タイプだけに、程々のヴィンテージ感を帯びているのも、自然体ルックに映る理由。シルエットや細部をしっかりモダナイズして、ありそうでなかったMA-1にリモデルしています。
今回の別注先になった「REMI RELIEF(レミ レリーフ)」は、デニムの聖地として有名な岡山県に自社工場を構え、職人技を生かした服作りで知られています。アメリカンベーシックのテイストに強みを持ちつつ、現代的で大人っぽいアレンジを加えるさじ加減が巧みです。
ディテールのアレンジが「ありきたりのMA-1」とは別物の存在感をまとわせています。たとえば、ブルゾン裾はゴムの入ったリブ編みが「お約束」でしたが、こちらはドローストリングスを通してあります。自分好みに裾を絞ったりゆるめたりして、シルエットを調節できる仕掛けです。袖や胴回りに適度なゆとりを持たせてあるので、重ね着してももたつかないのも、シーズンをまたいで着回しやすい工夫ポイントです。
色はミリタリーウエアのアイコン的なカーキと、スタイリングに苦労しないブラックの2色が用意されています。どちらもシンプルなシルエットになじんで、自在に着こなしやすい基本色です。
【REMI RELIEF】MA1ミリタリージャケット/別注 ¥35,200BUY
【HAKUJI】タンクトップ ¥10,450
【Proenza Schouler】フラットパデッドサンダル ¥71,500BUY
ナイロン素材にほどほどのつやめきがあるので、カジュアルな装いでも適度な主張が宿ります。でも、ミリタリー感が濃すぎないから、タイトスカートに合わせるような、大人っぽいアレンジにも溶け込んでくれます。
あえて裏地をはずしてあるおかげで、着心地が軽やか。キルティングで膨らませた防寒重視のタイプは、レイヤードに苦労しがちですが、こちらは厚手のトップスに重ねても窮屈に感じられないライトな仕上がりです。
ロング丈のタイトスカートで合わせると、すっきりした見え具合に。フェミニン度が上がって、こなれ感もアップ。ネックゾーンが広めに開いたトップスに重ねて、ゴールドチェーンネックレスで素肌にきらめきを添えました。
ヒップにかかる程度のミディアム着丈は、冬から春、夏から秋といった、シーズンの変わり目時期でも重宝します。コンパクトめの量感は細見えコーデにもお役立ち。「MA-1に興味はあるけれど、ハードに見えすぎないか心配」と敬遠してきた人にもおすすめです。背中側に適度なたるみがあるので、自然な華奢感が生まれています。ストラップサンダルで足元にもヌーディーなムードを呼び込みました。
【REMI RELIEF】MA1ミリタリージャケット/別注 ¥35,200BUY
【A.EMERY】レザーフラットサンダル ¥27,280BUY
【GABRIELA ARTIGAS】ネックレス ¥57,200
(c)Rie Miyata
例年にも増して、今年はレイヤードに関心が集まっています。多様性やジェンダーレスなど、時代の空気感をまといやすいのが支持を広げている理由。春のレイヤードには、かさばらないライトアウターが重宝です。
デニムのロングシャツをキーアイテムに据えて、上からMA-1を羽織った「長短」レイヤードが縦長ルックを印象づけています。チェック柄のシャツジャケット、ストレッチパンツも表情がうまい具合にずらしてあるから、ミックステイストが際立つコーデ。ベルトでウエストマークして、シルエットを膨らませない小技も効いています。
朝夕で温度が変化しやすいうえ、春先は冷え込みがきついので、この時期はアウターを手放せません。メンズ由来のアウターなら、マニッシュ服に重ねてクールに決めてもいいし、フェミニン服でジェンダーレスに整える選択肢も。着こなしのレパートリーを広げてくれるお役立ちアウターを味方に迎えれば、春コーデを日替わりで楽しめそうですね。
Text / Rie Miyata
宮田理江
(ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター)
多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報などを発信。リアルトレンドを落とし込んだ着こなし提案も得意とする。コンサルタントとしてのビジネスも手がけ、企業向け提案、セミナー、イベント出演も多い。