FASHION JOURNALIST
RIE MIYATA
TREND TIPS Vol.77
性別にとらわれない「ジェンダーレス」の装いが一段と盛り上がってきました。女っぽさを強調しないスタイリングは、しなやかに自立した女性像への共感もあって、支持を広げています。着心地のよさや着回しの自由度など、現実的なメリットもいっぱい。オーバーサイズやメンズ仕様が柱ですが、ルーズに見えないよう、ハンサム感やシックさなどを適度に盛り込むコーディネートがポイントになります。
「ガリャルダガランテ」には、自分らしくアレンジしやすいジェンダーレスな新作が勢揃い。メンズアイテムに変化級を加えた技ありの素材やディテール、シルエットに注目です。今回はほとんどオールシーズンで着られる新顔アイテムを中心に、大人女性にふさわしいジェンダーレスコーデのコツを披露します。
クールビズでもおなじみのポロシャツは夏物メンズの代名詞的なトップスです。そのままでは男っぽさが濃く出すぎるところがありますが、こちらのポロカラーニットはキーネック(スキッパー)を取り入れて、印象をやわらかく落ち着かせています。
スキッパーとも呼ばれるキーネックは、胸元にスリットが入ったデザインのことです。一般的なシャツやブラウスと違って、ボタンがありません。ボタンがない分、気負わない雰囲気が漂います。こちらのトップスも「ボタンレスのポロシャツ」といった見え具合です。
自然な開き加減に整うから、リラクシングな風情に映るのは、キーネックならではのよさ。パンツやマニッシュ靴で合わせても、メンズライクに見えすぎません。色はコーディネートの幅が広いキャメルとホワイトの2色から選べます。
見慣れたポロシャツと大きく異なるのは、肩口まで届きそうな大きな襟。意外感が高いのに加え、顔を小さく見せてくれる効果も。顔周りに程よいウィットも寄り添います。ボタンレスのキーネックだから、フロントの開き加減を自在にアレンジできます。目立つ位置だけに、装いのムードも様変わり。深めに開ければ、ほのかな色気が薫ります。
オーバーサイズまではいかない程度の、ややゆったりしたサイズ感は、伸びやかな着心地に誘います。袖口が広めにとってあるので、腕を動かしたときの袖アクションが目を引き込みます。指先がのぞく長めの袖丈も華奢感を引き出すディテールです。
着丈は正面側が短めで、背中側が長めの「前後アシンメトリー」。横一直線ではない裾ラインは、腰周りに自由なムードをもたらしています。素材に適度な落ち感が備わっているおかげで、着映えもしなやか。肩が落ちて、のどかなたたずまいに。ヒップが隠れるぐらいの着丈があるので、ボディラインを拾いすぎません。
ジェンダーレスに着こなすには、足元にマニッシュ靴を迎えて。厚底のローファーは新たなトレンドシューズに浮上しています。パンツと靴を黒でまとめれば、シックなジェンダーレスコーデに仕上がります。
【LEGRES】ローファー ¥81,400
先のコーデと同じような組み合わせでも、トップスを入れ替えれば、全体の表情も様変わりします。こちらもメンズカジュアルの代表的なトップスのボトルネック形プルオーバー。ネックラインが立ち上がっているボトルネックは首が細く見えるので、ほっそりイメージを引き出せます。
首に沿うスタンドネックでも、窮屈感がないのは、肌当たりのソフトな素材で編み上げたニットだから。素肌に付かず離れずの着心地なので、ストレスフリーに過ごせます。ネックラインに少しだけ高さがある分、上品に映ります。首周りが開きすぎないから、リモートワークの画面でもルーズに見えません。色はボトムスとの相性を選ばないホワイトとブラックが用意されました。
身頃から袖につながっていて、袖ぐりがゆったりしているドルマンスリーブのおかげで、肩周りが楽ちん。引っかかりを感じることがありません。ストレッチの効いた素材は、肌触りが滑らか。適度な張り感を帯びていて、身体のラインが出にくい仕立てです。穏やかな質感は大人っぽいスタイリングにもなじみます。
先のキーネックと同じく、前後で着丈が異なる点を生かした着こなしを試せます。たとえば、正面側の裾だけをウエストインすれば、さらに前後のアシンメトリー感が強まり、落ち感もアップ。背中側はヒップが隠れる長さがあり、体型カバーにも効果的です。
モノトーン系のコーデに生かせるのは、質感が異なるボトムス。ニットトップスの相棒にはつややかなレザーパンツがうってつけです。こちらのサスティナブルなパンツは、動物を犠牲にしない人工レザーで仕立てました。リサイクルナイロンを張り合わせた合成皮革です。色はレザーの風合いにぴったりのブラック1色です。
レザーのつやめきやクールさをまといつつ、リアルレザーよりも風通しやしなやかさの点で上という「いいとこ取り」がかなったパンツです。しかもレザーでは難しい、自宅での手洗いまでOK。お手入れもずっと楽です。
ゆったりめのストレートシルエットなので、レザーパンツにありがちな窮屈感とは無縁です。ナイロン由来の素材ならではの、見た目を裏切る伸びやかな穿き心地。脚のラインを拾いにくく、脚長イメージが引き立つのもうれしいメリットです。
スタンドネックのプルオーバーとブラックのレザーパンツを合わせるコンビネーションは、ジェンダーレスの雰囲気たっぷり。さらに、厚底のローファーを足元に迎えてクールにスタイルアップ。そして、全部をメンズテイストに染め上げないで、チェーンバッグだけはクラシックでレディーライクにしたところが賢いアレンジ。フェミニン感の一点投入でバランスを整えるスタイリング技です。
【LEGRES】ローファー ¥81,400
【ZANCHETTI】ショルダーバッグ ¥170,500
最初にホワイトをご紹介した、キーネックのポロカラーニットも、色がキャメルに変わると、ぐっと落ち着いた着映えにシフト。さらに、近い色調のボトムスを引き合わせれば、シックな「トーン・オン・トーン」の装いにまとまります。
センタープレス加工を施し、折り目をきれいに出したパンツは紳士服ライクな表情。ストレートシルエットが腰から下をスッキリ見せてくれます。
ベイカーパンツはベージュとカーキの2色が用意されました。どちらもトップスのキャメルにカラートーンが似通っているから、少しだけ色味をずらして、こなれ感を演出する「トーン・オン・トーン」のコーデに組み込めます。
もともとパン職人が仕事中に穿いていたパンツがベイカーパンツです。大きめのフロントポケットがアイキャッチー。気取らない「業務用」のテイストも、ジェンダーレスの装いになじみます。
コットン95%、ポリウレタン5%という、しっかりとストレッチが効く素材なので、ストレスフリーの穿きやすさです。お仕事シーンでも立ったり座ったりがスムーズ。しかも、ウエストはボタンで調節できるから、トップス裾のウエストインもアウトも自在です。
ストンとしたストレートシルエットのおかげで、脚がスレンダーに映ります。センタープレスも細見え効果を上乗せ。縦落ちイメージを引き出すトップスのキーネックとサイドスリットがポイントです。
秋から先はジャケットを重ねて、スタイリッシュ感をプラス。逆にカーディガンを重ねて、リラックス濃度を上げるジェンダーレスのアレンジも選べます。
ベージュやカーキ系のカラートーンでまとめたら、クラシックバッグとローファー靴で黒をアクセントに。引き締め効果も発揮する黒が生きて、コントラストがくっきり。華奢イメージのネックレスを加えて、ほのかに女っぽさを薫らせて。小物の使い方次第で、自分好みにムードを操れます。
【CAMINANDO】チャンキーソールローファー ¥23,100BUY
【ZANCHETTI】ショルダーバッグ ¥170,500
メッシュ編みのニットトップスは、程よく空気が通るから、どのシーズンでもさわやかに過ごせます。春夏は1枚で着て、秋冬はレイヤードに組み込んでといった具合です。アウターで暖かい秋冬は、体温や汗がこもらないメッシュニットが意外に重宝します。
こちらのニットトップスは正面の襟ぐりが深めだから、くつろいだ印象に映ります。ネックレスもうまく収まる好都合デザイン。ゆるやかな曲線を描くネックラインがデコルテや首をきれいに見せてくれます。
素肌にまとってもチクチクしない素材で編み上げられています。ウール70%、ナイロン30%のふんわりとした風合いがやさしげ。色はどちらもコーデに悩まずに済むチャコールグレーとアイボリーの2色での展開です。
しんなりとボディに沿うのは、アームホールがゆったりして、袖口も広めだから。程よいオーバーシルエットが、程よい抜け感を印象づけます。背中側が長めで、自然な落ち感と、抜き襟のように後ろへ抜けたシルエットは、力みを遠ざけたエフォートレスな着映えに導きます。
身頃にスペースのゆとりがある分、秋から先は内側にシャツやタートルネックなどを着込んでレイヤードを組み立てやすくなっています。1枚使いと重ね着を使い分ければ、ほとんどオールシーズンで着回せる重宝ニットと言えるでしょう。
写真のようにくつろいだ表情のパンツで合わせるなら、小物で別のテイストを添えて。レザーのクラシックバッグや素足履きのローファーのおかげで、リラックス感と品格を交わらせた、ひと味違うジェンダーレスコーデが生まれました。
スウェットパンツはたっぷりめのロング丈で、適度なデイリー感が楽しめます。色はグレーとホワイトの2色をラインアップ。ロゴ刺繍が施されていて、格上感が備わっています。タオル風のパイル編みだから、汗で蒸れにくく、ヘルシーな着心地です。
ウエストはドローストリングス付きで、サイズ感やウエスト位置を自由に調節できます。ゴム仕様の裾はリブ編みが長めで、足首の細感を引き出す仕掛け。足元でくしゅっとたるませる小技も選択肢に加えて。適度な厚みがあるから、レッグラインのカバー力が安心感をもたらします。
スウェットパンツには普段着イメージがありますが、あえて白シャツやヒール靴を引き合わせて、きれいめに着こなすスタイリングが抜け感を引き出します。リッチ感が備わったバッグを持ったり、本格調のテーラードジャケットを羽織ったりといった、意外感が高めのテイストミックスも、コーデの幅を広げてくれます。
【LEGRES】ローファー ¥81,400
【ZANCHETTI】ショルダーバッグ ¥170,500
オーバーサイズのデニムシャツは、デニムジャケット風に羽織れるから、シーズンを超えて便利に使えます。ジャケットよりも軽やかに着られるうえ、前を開けて、カーディガンのようにサラッとまとえるのは、着丈が長めのタイプならではの長所です。
シルエットの余裕がある分、着やせして映る効果が期待できます。ヒップが隠れる着丈があるので、縦落ち感もしっかり。ボディラインをぼかす仕事も引き受けてもらえます。メンズシャツのムードを、ウィメンズの装いに取り込める頼もしい1着です。色はブルーデニムとブラックデニムの2色での提案となっています。
まるで古着屋さんで見つけた掘り出し物のような、ナチュラルなグラデーションのかかった色落ち感が印象的。それでいて、小さめの襟、ルーズすぎない袖という、古着そのままではない、絶妙なバランス感が魅力になっています。世界的にトレンドになっている古着ブームを取り入れつつも、大人ならではのこだわりを忘れないストリート感覚のジェンダーレスコーデがかないます。
人気の続いているアイテムに、上下がつながった「オールインワン」があります。オーバーオールにはカジュアルでかわいらしい印象がありますが、こちらは大人仕様。ハイゲージのニット仕立てのオールインワンは伸びやかな着心地です。色はアイボリーとブラックの2色です。
ニットならではの肩の力を抜いたリラックスムードをまといながら、カジュアル系オールインワンとは別物の上質感を演出できる、ワンランク上の「つなぎ」スタイルに導きます。ジャケットやコートを羽織れば、きれいめの装いに。トップス部分を脱いで腰巻きにすれば、おしゃれ上級者風の着こなしに。アレンジの幅が広く、多彩な着こなしが可能です。
パンツ部分の裾をブーツインすれば、ストリート気分を帯びたジェンダーレスコーデの出来上がり。タフなブーツを選ぶのが、足元にたくましさを呼び込む今季流スタイリングのコツ。作業着スタイルを街中コーデに落とし込む感覚が新たなおしゃれの選択肢として浮上してきています。
ライトな着心地のミリタリーウエア「CPOジャケット」はしばらく前から人気が続く羽織り物です。もともとシャツとジャケットの中間的なアイテムでしたが、近ごろはさらにバリエーションが拡張。ソフトシルエットや上質生地の新顔タイプが登場しています。「ネクスト定番」化しつつあるアウターと言えるでしょう。
こちらは胸ポケットをはじめとする、アイコン的なディテールは残しつつも、全体にミリタリー色を薄めた、マルチ使いしやすいCPOジャケットです。控えめなチェック柄が全体にあしらわれていて、セットアップで着ると、いっそうおしゃれ見えします。
長い歴史を持つ、英国の織物工場、MOON社のスーツ生地を使って仕立てられています。MOON社は1837年創業というウールの老舗企業。本体は毛100%だから、なめらかな質感があり、体の輪郭に自然となじみます。
色はブルーとキャメルの2色が用意されました。ブルー地は微妙な濃淡があり、レッドのチェックラインが目立たない感じであしらわれています。キャメル地はブルーのチェックラインがほんのりと浮かび上がるデザインです。
ヒップがさりげなく隠れるオーバーサイズなので、体の線を拾わないシルエットが強み。どんなボトムスにも好バランスを発揮します。ジャケット裾のコードを絞れば、全体に丸みを帯びたフォルムに様変わり。ジャケット風にもブルゾン風にも着回せるという、使い勝手のよい造りです。
セットアップになる、共布のパンツが用意されています。上下でまとえば、かしこまらない「崩しスーツ」ライクな着映えに。原型は軍用ジャケットだけに、メンズ風のムードが漂います。あえてフェミニン寄りの巾着型バッグを携えて、ジェンダーレスに整えるさじ加減がこなれ感を引き出します。
(c)Rie Miyata
メンズ由来のポロシャツに、トラッド風ジャケットを羽織った、お手本的なジェンダーレスの装いです。白のパンツと合わせて、スポーティなムードをプラス。マニッシュな革靴も相乗効果を発揮。マルチカラーのボストンバッグが差し色を加えました。男っぽさをまといながらも、ジャケットの袖まくり、素足の足首見せと、ヌーディ感も盛り込んで、全体のバランスを整えるあたりがさすがのファッショニスタ技です。
ジェンダーレスの装いは、芯の強さや端正な着映えを印象づけつつ、こなれた印象に仕上がるから、上手に使いこなしたいコーデです。難度が高いと思われがちですが、今回紹介したいくつかのコツを生かせば、割と手軽に試せます。まずは、メンズ風シルエットのトップスを1着、パンツを1本、ワードローブに迎えてみましょう。タイムレスでシーズンフリーという、重宝なスタイリングでもあるから、まだ暑さが残る時期から取り入れてみても損はありません。
Text / Rie Miyata
宮田理江
(ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター)
多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報などを発信。リアルトレンドを落とし込んだ着こなし提案も得意とする。コンサルタントとしてのビジネスも手がけ、企業向け提案、セミナー、イベント出演も多い。